『天狗の鼻折れ』



















第1章 華やかな賭場 ボスの交代劇
第2章(回想)コイン一つで成上がる男
第3章 巨大化する天狗集団
第4章 転落。敗北と裏切り、そして去勢
第5章 辺境のアジト。男の復活劇
第6章 篭城。再び姿を消す前のドラマ。




























第1章

薄暗い空間。
とてもとても遠くから。
様々な面を付けた者達が歩いてくる。

山奥に開かれる、非合法の賭場を取仕切る者達である。
集団のボス(イチカワ)を先頭に歩く。
すぐ傍らにはボスの右腕と目される男(イシヤマ)が続く。彼だけが、「天狗」の面を付けている。

別の風景がIN
男性2(ハセガワ・スギモリ)、女性(マツナガ)のカジノのシーン。

マツナガ「何かを賭ける。×2。賭博の場においてその行為は、単にチップを上乗せし、金
貨札束を積み上げるという意味に止まらない。自分の選んだ目に賭ける。それは、自らの信
念を賭けるからこそ、まさに賭け事なのである。……やだ、言ってて自分でゾクゾクしちゃ
う。
ハセガワ「お姉さん。……お姉さん。
マツナガ「あんッ。やだアタシったら、哲学ってた?
ハセガワ「てた。よろしいですか?締め切りますぜ。
マツナガ「ごめーん。もうちょっとだけ待ってもらえる?
ハセガワ「かっこいいこと言っといて、それかよ。
マツナガ「そんなに簡単に信念賭けられる訳ないじゃない
スギモリ「そんな悠長なことしてっと、鶏はおろかアヒルが鳴くぜぃ。いいかい?何かを賭
ける。×2。賭場においてその行為は、単にチップをやり取りし、金貨札束を奪い合うとい
う意味に止まらない。自分の選んだ目に賭ける。それは自らの信念に従い、自らの未来を預
けるからこそ、人生の縮図足りえるのである。ま、オンナコドモはわからなくてもいいさ。
ハセガワ「そういや兄さん、どっち賭けるか聞いて無かったな。
スギモリ「男が信念口に出来るかっての。
ハセガワ「なに?
スギモリ「ここ一番の大勝負ってときにそんな安っぽいことできるかっていってるんだよ。わかるだろ?
ハセガワ「わかんねぇよ。

「何よ、また負けてんじゃない。
「お客様、今夜はここらで一旦。
「バカバカ、負けっ放しで帰るわけにいかないわ。主人になんて云えばいいのさ。
「しかしもう随分お遊びですよ。
「うっさいわね、お金ならまだたくさん持ってるんだから。残ってないわ。ね、お兄さん。ちょっと回してよ。
「姐さんまたですか?
「ね、勝ったら倍返しでいいから。
「もう結構積もってますがねぇ。
「うっさいわねぇ。最後に勝ちぁいいのよ、いいから少し回しなさいよ。

「では、ドロー。
「ふん。いいじゃない。もうこれで決まりね。
「ぬぉっ。
「私の番よね。レイズアップ、受けて下さるわよね?
「お客様、時には引き下がることも勇気ですよ。
「いや、しかし。もし次のカードが、
「そう。「もし」つぎのカードが収穫祭なら、ゲームは逆転、あなたは場の全てのチップを
手に入れます。しかしそうでなかった場合のほうが多いんですよ。
「きっとね、あなたの次のカード、ピエールよ。
「外野は黙ってろ。今考えてる、考えてるんだ。
「老婆心ながら、ここは降りるのが懸命かと、降りて次に繋げればいいんですから。
「どっちでもいいわよ、早くして頂戴。
「捨て札が十二枚、手札が三枚ずつで併せて六枚。ココまでで十八枚で、山の残りが丁度三
十枚か。単純に三十分の一。けど、今日の俺なら、きっと来る、来る、来るんだ
「確率なんてくだらないわ。下手の考え休むに似たりっていうの知ってる?化粧直してくるわ。
「コールだ、コールと云うんだ、コールだ…

予想屋「さあさあ、よくぞいらっしゃいました。山越え谷越え、幾多のセキュリティーを数
多の符丁を飛び越えようこそ! こちらが娯楽の殿堂でございます。

女の人が、いらっしゃ~い。とか言う。

予想屋「合法、非合法、何でもござれ。てか、そんな無粋な仕切りはここにゃ無い! こち
らの粋をこらした賭け事の数々。仕切りまするは、不可思議お面軍団!

これこそカジノに御座いまする。
これぞ賭場だぜ、インダハウス。

ポーカー・丁半・スロット・絵合わせ、各種から。その合いの子まで、何でもありだ。もっと
奥じゃ、レースだって開かれてる。さらに奥じゃあ、金賭けキャットファイトだってある。
(やって下さい)馬、猫、人、何でも走るぜ? あたしかい? あたしは、この隅で予想屋
させて貰ってるケチな下請けさ。聞いてく? 興味ない。あ。そ。じゃ、シッシッ。何見て
んだ。……よくぞ、見破ったな! 俺の正体、ある時はケチな予想屋,またある時は以下略。
しかしてその正体は……。おおっと、大きな声じゃ言えねえ……

(こっちこっちと手招きするアクション(客席へ向けて))
が。思わせぶりなだけで、二度と物語には出ない。


「おい、イカサマだ。こんなのが偶然続くわけねーだろ。こんなの俺ぁ認めないからな。
「お客様、困りますねぇ。そんな言いがかりつけられちゃ。
「言いがかりなもんかよ、こんな、あ。あれか、お前もグルか?皆して俺のことハメようっ
てか。おーい、イカサマだー。気をつけろ、ここはイカサマしてるぞー
「お客様、困りますよ、そんなこと大声で喚かれちゃ。他のお客様にご迷惑ですから。
「迷惑してんのはこっちだよ。
「お話はあちらでゆっくり承ります。さ、こちらへ。
「おい、止せ。行かねーぞ、行かないって、ちょっ、止せ…

ボスの一行が、そこへ到着する。
さらに、ボスと天狗の男と数名が、華やかな賭場を、その幾つかの卓を回るシーン。

ボス 「向こうが騒がしいな。
天狗面「行きましょう。

何で勝てないのよ、とか二箇所でもめている。
あっちに行くわよ!とか言ってる。
以下の台詞開始と同時にスローモーション。いつしか、その卓の客・店の者達、波のモーシ
ョンを模している……

ボス 「2卓が同時に荒れてるのか。
天狗面「さざ波程度ですが。
   「揃えば、思いもよらぬ潮(うしお)を起す事もある。
   「場の空気を読むというのは、
   「その卓の流れを読んで終りではない、まさに場の流れを、
   「その賭場の、波の向きと高さを見極めるのだ。
   「そう。そちらに入ってくれるか。こちらは…、久方ぶりに…俺が。

それぞれの卓に、“仕切り”として入る二人。


ボス「ポーカー?いいですね。ギャラリーも集まってきた、大きな勝負といきますか?あな
たもそのつもりで私に吹っかけてきたんでしょう、このカジノのオーナーである私に。

ラクダのこぶってのは幾つありましたっけね?
バカ野郎!一つもありゃしねえよ。
え!?
大事な勝負に槍入れようってのか、黙ってカード配りゃいいんだよ。あぁ、失礼、ウチの若
いもんが出すぎた真似をしたようで。
さて、博打をうつ人間には2種類居てね。くたばった貝の様に押し黙って場を見据える人間
と酒を片手に能書きを垂れる人間と。俺はもっぱら後者でね、あんたは…前者だろ?まぁ丁
度いいんじゃないか?
大きな手が入ったようだね、けど焦りはいけない焦りは。焦るとほら、人間てのは汗をかく、
すると思わず舌が滑る。…レイズで倍掛け?あんた、早速舌が滑ったようだ。さぁ、こっち
は用心しよう、ひょっとしたら、降りたほうがいいのかな?…大丈夫、こっちにも面子があ
る。これだけの方達に注目されてるんだ、じゃあこうしましょう。さらにレイズ。いかがか
な?
その悩んだ表情匂うなぁ、あんたそれブラフだろ?商売柄鼻は利くほうなんでね。おっと皆
さんもカードを除くのはナシだ。ゲームは最後の一瞬まで、スリルと恐怖の詰まったブラッ
クボックス。

何で面を着けてるかそろそろお分かりでしょう?いわゆるポーカーフェイスって奴だ、顔色
を包み表情を覆い隠す、便利なもんだ。卑怯?けどね、もう一つあるんだよ。これを外すと
…ご婦人方が騒ぎ出す、色男は勝負してる暇なんてないって寸法だ。
さ、青天井とはいえ、そろそろ手をうちませんか?ええ、いいでしょう。もう一声だけ。…
OK.もちろん受けてたつ。
ははははっそんな手が入ったんじゃあ、この掛け金にも納得が・・・勝負の最中だ。…わか
った、今行く。失礼、野暮用で。このアガリは皆で分けてくれ。ザンネンだが私の勝ちの様
だ。

と、天狗面の男が、ボスに耳打ち

天狗面「ボス。
ボス 「来たか。
   「(頷く)
   「そろそろだと思ってたよ。まあ、十分祭を開かせてもらった。連中の鼻は、しかし
効かんな! 相変わらず辿り付くのは夜明け前か。
   「部下がよく惑わしてくれています。
   「そうだな。退路はどうだ。3つ、
   「3つ、確保済みです。
   「いい仕事だ。
   「マイク。用意しましょうか。
   「いや。地声で通す。ご来場の皆様。お楽しみの所、申し訳ありません。今宵も無粋
な犬共が嗅ぎつけ駆け寄って参りました。奴らに餌をくれてやる必要はありません。
   「お客様方。当局の手入れです。すぐさまお逃げ下さい!!
   「出口は3つ用意してあります。1つは、我々の逃走路。こちらが、お客様の出口。
当局への保護を求める方達は、あちらからどうぞ。それぞれ、お間違えなきよう!! おい! 
暴れに行くぞ! 我らが足止める!! 慌てずゆっくりお帰り下さい。

客を、賭場より逃がす。
マシンガンを持ち出す、天狗の男と部下たち。
乱射するパフォーマンス。そして走り去る。

無事に逃げのびて。ボスと天狗面の男のトーク。部下は、(また!)脇で賭け事やってる。

ボス「お前らも外して構わんぞ。面。(向こうの部下らに)追っ手はないか。
天狗面「ええ。
ボス「他の連中は。
天狗面「もうしばらくかかります。
ボス「勝負の基本だ。ヒットアンドアウェイ。夜な夜な静かにひっそりと開くものだよ。賭
場ってのは。いざとなれば、ケツまくって逃げ出しちまうぐらいで丁度良い。お前の面と一
緒だよ。テングってのは、山伏の堕ちた姿だ。修行の力を過信した者達が成り果てた異形。
彼らは、その罪を償う為に山奥で、ひっそりと知恵を教授して回らねばならない。それしか
その罪を軽める手はない。俺達は、そんなオバケの集団よ。賭け事の楽しさという、知恵を
な、少―しだけ教えて回る。
天狗面「……。
ボス「良い勝負の記憶ってのは、後で何度もソイツの中で思い出される。上等の料理と同じ、
思い返し反芻するに足るだけの濃厚な深いうまみを、その中に含んでいる。俺にとっては、
前のボスを倒した勝負がそれだ。……あれは、良い勝負だった。(面をゆっくりはずし)集
団の首領の座を賭けて(面を指でさしながら)サシでやり合った。
天狗面「……。
ボス「意地と意思のぶつかり合い。ひっくり返そうという力、とそうはさせまいとする力。
(手の平でアクション)小さなコインに、それだけの物がノる。……そして俺はひっくり返
してここにこうして立っている。こんな風に騒がしく一晩乗り越えた朝程、よく思い出すよ。
天狗面「良い勝負の記憶。……それは単に、あんたが勝てたからじゃないのか?勝負の良し
悪しなんかじゃなく、あんたは、自分が気持ち良く勝てたという甘い口当たりに、飴を舐め
終えたのに未練たらしくコロコロと口の中を舐めまわす子供みたいに、いつまでもひたって
いたいだけんなんじゃないのか?(ゆっくりと面を外して)もう一回言おうか?もう一回分
かり易く言おうか?そんな風に口当たりの良い記憶におぼれて生きていたいなら、(ここで
ボスの顔を見て)もはや、この集団のボスを続けなくたって、いいんじゃあないか?
ボス「何言ってんだ手前。……おい、こいつは一体、どうしちまったんだ?おかしいよなみ
んな!何を言ってるんだろうな。おいみんな、こいつ言ってる事おかしいよな?

気まずそうに無言の者達。つまり、もう裏切りは浸透しているのである。

ボス「成程。成程……。
天狗面「あんたは古い。
ボス「その発言で大丈夫か?そんなこと口にしていいのか?周り見えてるか?目、曇ってる
ぞ。
天狗面「オレはさ、ボス。鼻が効くんだ、ここが勝負どころだって。
ボス 「ハッ。本当にテングんなってやがったか。
天狗面「あんたは俺と勝負しなきゃならない。違うかい?その面の皮の奥の面子を賭けて。
ボス「そしてお前の、命。一回だけチャンスをやるよ。俺に勝てたら今回の暴言は酒に流してやる。
天狗面「コインでいいですよね?こういう時は単純な方がいい。それに、ちょっと験を担がせてもらう。
ボス「そしたら俺の勝ちって知ってるか?

コイントス。

ボス「選ばせてやるよ。
天狗面「いいんですか?
ボス「誰に言ってる。
天狗面「おれの答えは最初から決まりだ。あんたは古い。山奥で森に囲まれた井戸の中のお
月さんに一体どれだけの価値があるっていうんだ。結局賭け事をするって事は、勝ち取る栄
光で、世間のお天道さんになることだろ?あんたがしたように。
ボス「いい勝負にするつもりはないが。
天狗面「それはこっちも。
ボス「表か?裏か?
天狗面「表だ。
ボス「お前らもよく見てろ。もう一度訊く。表だな。
天狗面「ああ。

コインを見ようとしてストップモーション。どこからか女神が表れる。

女神「コインの表と裏の見分け方。それは価値が数で刻まれているのが裏。そのコインで賞
賛が描かれているのが表。だからコインの勝ちはいつも裏に潜んでいるもの。でも、たまに
は気まぐれがあったっていいんじゃない?勝ちが表に、負けが裏に。

女神は消えて、また時間が動き出す。

天狗面「ボス、そういうわけだ。
ボス「仕込みやがったな。
天狗面「まさか。勝負の女神が味方してるってことさ。
ボス「まぁいいさ。今回の件はチャラに
天狗面「勘違いするなよ?あんたは古い。そういったよな。
ボス「コインと同じで、ひっくり返したつもりか?
天狗面「そうじゃないのは、あんただけだよ。押さえろ。
ボス「何しやがる、おぅお前ら。どういう了見だ。
天狗面「このコインと同じで、面の皮もひっくり返させてもらう。おとなしくしてようが大
暴れしようが結果は同じだ、好きにしてくれ。

ボスと下っ端ーズでアクションからリンチに。最後に天狗面がボスの面を真っ二つ。
天狗面、どこからか袋にいっぱいの天狗の面。

天狗面「俺たちは山奥の天狗だ。おまえらの分だ、今日からはみなこれを被れ。

天狗面「山を降りるぞ。俺は先代とは違う。もっとギャンブルを流行らせる。このアンダー
グラウンドのカジノに、栄光という名の光を降り注がせてやる。イケイケでいくぞ。テング
んなれ!

第1章了


第2章

天狗面「改めまして、本日はご来場ありがとうございます。この話の主人公を演じる演者で
す。ども。さてさて、全章の終わりにて、賭場のボスを打ち倒した天狗面をつける男。この
章では、彼がこの賭場を仕切るアングラ集団に入団するあたりを演技していきます。そう。
つまり、回想シーンです。じゃ、いきましょう……
その男は、どこにでもいる若者だった!
ギラついた前のめりの若者だった!
あギャンブルで。イッパツ。あててー。
やっとこ貯めた給料一月分。そいつがメタモルフォーゼした、ね、一枚のコイン。
どんなレートだよ!
だけど、俺の鼓動はビートだよ!
燃え尽きるほどヒートだよ!
万倍にするぜ、きっとだよ!
あっ。(コインを落とす)
ヒト「あっ、百円。ラッキー。
ヒト「あ、ジュースおごって。
天狗面「待ってー。(飛び込みながらパンチ)

(何だキミは、とか言われながら)二人組みの男にボコボコ。

天狗面「や、足元に投げたのは謝る。それは拾うよね。でもね、それ、小銭じゃないんだ。
とある高レート素敵カジノの大事なワンコインなの。自販機に入れても、飲まれるだけだか
ら。返せっつうんだ、このヤロー。

ゾンビみたいに効かない男。ボコボコなのに。

ヒト「恐えよ。痛。痛くないのかよ。
ヒト「そんな血とか液でてて、なんで笑顔なんですか。
天狗面「(返してもらう。が。その腕が折れてる)サンキュー! あ、折れてた。
二人「ヒエ〜!!
天狗面「痛いの痛いの気付けねえ。と。というのも、俺には先天的に痛覚というものが欠け
ているのだ。イテーッ! なんて言って、あまりの痛みに転げ回るなんていう経験はない。
イケイケな痛覚の無い男。

よーし、このマシンで、軍資金を貯めるんだ。何せ、手持ちは一枚。一月働いて、やっとこ貯めた一枚……
どんなレートだよ!
だけど、俺の鼓動はビートだよ!
燃え尽きるほどヒートだよ!
万倍にするぜ、きっとだよ!
あっ。

スロットに飲まれました。

ヒト「踊り子さんには触らない、お店のマシーンを叩かない。(ループで、フェードで。)

ヒト「何だよ。出入り禁止かよ。お…誰か出てきた。
ヒト「いやー、今夜はボロ負けしちまったよ。
ヒト「自分勝ちました。ほら。
ヒト「お前そのコイン金に換えてこなかったの?
ヒト「どうせまたココで使うっすからね。
ヒト「成る程。

天狗面「じゃあ、そいつは俺が今から使わせてもらうよ。

ボコッ。ドカッ。

天狗面「最初ッからこうしときゃ一月も貯金せずに済んだんだよな。さて…もっ回遊ばしてもらうぜ。
ヒト「お客さん、すいませんが。
天狗面「え!?
ヒト「一部始終はうかがいました。
ヒト「途中から見てました。
ヒト「困るんですよねー。ウチの常連さんにあんな真似されちゃ。
天狗面「何?マジ?
ヒト「ちょっとこちらに来て貰いましょうか。
天狗面「ゲー。…コインの新しい使い方。利き手に深く強く握り込んで。出す。アレ!?
ヒト「素人兵法は怪我の元ですぜ。

連行。

ヒト「ボス、こいつです。
ボス「おい、面外せ。若いな。おぅ、随分と威勢がいいらしいな。けどここじゃ通用しねぇ。
天狗面「うるせぇ、いいから離しやがれ。
ボス「まだ元気が余ってるみたいじゃないか。おい、こいつがどういう状況にいるのか教えてやれ。

ボコ。どか。ぐちゃ。ドゴーン。

天狗面「これで終わりかい?よくわかんねえな。
ヒト「ゾンビみてぇなガキだな。
ボス「まあいい。話は簡単だ、お前が手ぇ出したウチのお客さんの治療費・慰謝料、ウチの店の迷惑料、諸々合わせて払って貰おうか。
ヒト「今すぐ耳揃えて持ってきな。
天狗面「そんな大金、ある訳ねぇだろう。
ヒト「じゃあ、海に潜ってピラニアの餌にでもなってもらうか。
天狗面「ピラニアがいるのは河だ、海にいるのは鮫だ。
ボス「痛ぇのは我慢できるようだが、食われちまえば関係ないだろ?
天狗面「だったら、この店で一晩で稼いでやるよ。なんなら釣りもイラネェ、どうだい?
ヒト「大きい口叩くじゃねえか。
ボス「お前の面構えじゃ無理だな。
天狗面「手前には云われたくねえな。

ボス「OK.まったく殴ろうが蹴散らそうが暖簾に腕か。面白い奴だ、いいだろう、一晩と言わずウチで稼がせてやる。
天狗面「話がわかるじゃないか。
ボス「ウチはそれこそピンからキリまでありとあらゆるモンが集まってる。何でもやるがいいさ。
天狗面「もちろん、色々何でもやらせてもらうよ。
ボス「精々しっかり稼ぐんだな。あぁそれから。
天狗面「何だよ。
ボス「とりあえず身包み剥がせてもらうぜ、こんなのでも少しは金になるだろ。
天狗面「まっぱでギャンブルなんてふざけんなよ。
ボス「お前はとりあえず店の掃除からだ、何でもやるんだろ?しっかり働いてしっかりと稼げよ。
天狗面「・・・アレ。俺ってばまんまと嵌められたよ!ギャンブルやりに来たはずがギャン
ブルさせる側の仲間入り?とんだ大博打だいいだろう、乗ってやる、そしてすぐに見返して
やる。だからまぁ…見てなって。

いつのまにか、ディーラーの教育係が立っている。

教育係「ほらほらそんな所にいつまでも転がってたら迷惑でしょ?さ、起きましょう。
天狗面「あんた、何だ?
教育係「私はあなたを教育する役で、あなたは私に教育される役。今日からはしばらく私に従ってもらいます。
天狗面「そんな話聞いてねぇぞ。
教育係「今云いました。何でもやる、いってましたよね。自分で口にした以上は、従いなさい。
天狗面「好きにしな。
教育係「ではまずは姿勢、そしてお辞儀。0点。足は揃える、背筋を伸ばす、手の位置はここ。はい、もう一回。4点。
天狗面「何が悪いんだよ。
教育係「心構え。
天狗面「てなわけで、最悪な一日だった。ていうか一週間だった。ただの姐さんかとおもったら、ありゃとんだくそばばーだ。
教育係「目上の女性に対する態度、15点。
天狗面「珍しく高得点じゃないの。
教育係「ネエサン、といってくれましたよね。さて、応用問題にしましょう。あそこにいる中で、一番カモになり易いのはどれ?
天狗面「…右から3番目。
教育係「一番はずれ。
天狗面「何で!
教育係「あの人は近頃うわさになってる、流れのギャンブラー。もっと街に出て情報仕入れなさい。
天狗面「その暇を寄越せよな。
教育係「それはあなたの努力次第。因みに一番左はウチの常連さん、ぶっちゃけカモはカモだけど、少しずつ搾り取るほうが結局は儲かるわ。
天狗面「残りの奴らは。
教育係「ウチの若いもんよ。みればわかるでしょ?
天狗面「何か?最初から二択問題か?
教育係「いきなり難しいことさせたりはしないわよ。
天狗面「そいつはどうも。
教育係「さて、いい機会だから少し難しい話をしようかしら。カジノがうまくやっていく為に一番大事なこと、何だかわかる?
天狗面「客から効率よく巻き上げる。
教育係「あなた着てるものまで巻き上げられちゃったものね。はずれ。いい?一番大事なこ
とは、ルールを破らない。一度口にしたことを曲げない。このカジノってとこはおかしなと
こよ。サイコロ振って、出た目が偶数ならあたしの有り金あなたにあげる。けど奇数だった
らあなたのを全部もらうわ。何それ?これって無茶苦茶な話だって気づいてる?働かずにお
金が貰えて、買い物せずにお金取られちゃって。
天狗面「カジノってのはそういう所だろ。
教育係「決めた。私一文も払わないわよ。そしたらどうする?
天狗面「は?んなことなら俺も出さねえよ。
教育係「その通り。実はあなた賢いの?私も出さない、あなたも出さない。そしたらもうギ
ャンブルにならないわ、ただのゲーセンよ。
天狗面「だからカジノにおけるゲームの本質ってのは、最初に決めたルールに最後まで従っ
ていくという覚悟が勝負を分けるってポイントだ。意地とプライドをどこまで張り続けられ
るか。結局はそいつがものを云う。
教育係「でも、それじゃあ勝てないのよね。
天狗面「おい!んじゃあ今までの話はなんだったんだよ。
教育係「けど、ルールが大事なことは少しは分かったでしょ。
天狗面「充分わかった、そいつには自信があるんだ。だからそろそろ店にたたせてくれ。
教育係「ノンノンノンノン。これから奥でこの店の全てのゲーム、ルールを叩き込んであげ
るわ。さ、いらっしゃい。
天狗面「おい、ふざけんな。
教育係「いいからおいで。夜はまだ長いんだから…。

いつしか成長をとげている天狗面の男。(パフォーマンス)

天狗面「何で面をつけているかそろそろお分かりでしょう? いわゆるポーカーフェイスって奴だ、そしてもう一つ、これを外すと……

幸運の女神、しれっと出てくる。

ヒト「うーん。前半はちょこちょこ勝てるんだけどねえ。
ヒト「そうそう、トータルで見ると、大して浮きゃしない。
ヒト「何よりあれな、肝心要の勝負所では、必ずお兄さんに持ってかれちゃう。
天狗面「まさか。
女神「やらしい奴よね、狙って勝ってるんすよコイツ!
ヒト「明日も開かれるんでしょこの賭場。
天狗面「そうですね、手入れがなければ。
ヒト「あ、まだ居るんだ。ヤッベェな、明日も来ちゃうかな。
天狗面「この小さなテントが街を去る時、あなたの家までが消え去らないように。
女神「思って。いない事を。言うなー! くそディーラー!
ヒト「上手いねどうも。
ヒト「強いね君は。
女神「こいつなんかね、あちしのパワーがなきゃね。ヘッポコピーなんすよ。
天狗面「さあ、ではこの卓も閉めましょうか。精算を。(奥へ向かって)
女神「ヘッポコピー。
天狗面「さっきから何言ってんだ手前ェ。
女神「ええー!? 見えてたのー!

幸運の女神は、見えない人っぽい感じで芝居をしていた。

天狗面「何で、そんな威圧的なんだお前は。(女神、あり得ない位でっかいヒール。すごいグラグラしている) お前みたいな、得体の知れねえのは、入れない筈だけども。
女神「えーっ! どっから聞こえてました!?
天狗面「くそディーラーの前辺り。
女神「ほぼ全部―(謝り)
天狗面「客じゃあ、ないみたいだな。で?
  「で?
  「で? お前誰だ。
  「……幸運の女神です。
  「は?
  「幸運の女神です。あっ。危ない。前髪をつかまれない様に!
  「ここに勝手に入ってきたんか?
  「前髪を
  「なあ、おい。
  「守らなきゃ。
  「まあいい。大体分かった。どっせ〜〜い。

幸運の女神を大外刈りっぽいので投げる。ひどい。

天狗面「抱かせろよ。
女神「は? はァ? え。何……
天狗面「大方、そこらで紛れ込んだグルーピーだろ。
女神「(蹴飛ばし)ちょっと待てー! 何言ってんの!? いい? あたしは、これかなり大事なこと言うわよ。あたしは、あんたの脳内キャラクターな訳。
天狗面「脳内キャラクター?
女神「そ。脳内キャラ。
ヒト「お疲れ様です。ボスが呼んでます。て兄さん一人四つんばいで何してんすか。
天狗「……えっ!?
女神「(部下を叩く。部下びっくり)見えてないから。ベタでごめんだけど、バッチリ見えてないから。
天狗「なあ、こいつは俺の空想なのか?
ヒト「え、何が空想なんですか?(去る)
天狗「つかれてんのは、俺か。
女神「つかれてんのよ。幸運の女神にね。あんたは、これから勝負と呼ばれる全ての事に
、敗北することはない! あたしが、幸運を運ぶから! 詳しい話は、後でゆっくりしまし
ょう。 ボスが呼んでるんでしょう? まずは、行ってらっしゃいな。
天狗「……分かった。そこ動くなよ。
女神「……分かってないじゃん。あんたの心に住んでんだっつの。

暗転。

ボスと打ち込みをしている、天狗面の男。
それは、第一章の立ち居振舞いに近い。

ボス「おまえを俺の右腕にしたい。
天狗「えっ。
  「まるで幸運の女神が付いているかのような、おまえの勝ち方。
  「(ちょっとあせって振り返る。女神はいない)
  「そいつを貸せ。

打ち合い、続く。(天狗面の男、切られるを構わず前へ出る)
ボス、天狗面の男を組み従えて。

ボス「ただしいいか。間違っても反逆なんて考えるなよ。
天狗「まさか。
  「仮に首領殺しを成しても、お前のその前のめりの攻撃性。その攻撃性は、隠しようもない歪み。天狗になった集団は、すぐにも瓦解する。これは、予言めいた、俺の確信だ。
  「ボス、何を言って……
  「お前、今の時点で、例えば、剣の腕において俺と同等かそれ以上だと思ってるだろう。いいか? 俺は無傷。お前、体、ボロボロだぞ。気が付いてるか? 痛みに鈍感ということは、そういうことだ。

一瞬、ガクンと膝が落ちる天狗。
天狗の男が自分の体を、見たところで。

第2章 了


第3章

天狗面「本当に面白いことは、今、ここで起きている。
皆  「この賭場で起きている。
天狗面「金を賭けろッ。
皆  「プライドを賭けろッ。
   「親を質に入れてでも賭けろッ。
   「パンツ一丁になっても、あきらめない!
   「タンス売っぱらっても、やめられない!
   「そう。キーワードは。
   「イケイケでいくぞ。天狗ンなれ。
   「あ。ギャンブルで、イッパツ、当ててー。

皆  「すんません。自分、勝てますかね? 自分、いつか勝てますかね?
天狗 「簡単なことでしょう。本当は、皆、答えは掴んでんのさ。
   「……あっ!
   「そう。
   「ギャンブルって、オリなければ、いつか勝てるんだ!(キラキラ)
   「yes! イケイケでいきましょう。天狗ンなりましょう。本当に面白いことは、
今、ここで起きている。ハイリスクハイリターンを夢見る貴方に朗報! 完全匿名、秘密厳
守、この天狗面をかぶって辿り着いて下さい。もてなす私共も天狗の面。
   「天狗のお面着けて、身分は隠して、野心は剥き出しで、賭博をしよう! 本当に面白いことは、今、ここで起きている!

天狗 「こんなもんでどうだ。CM。
ヒト 「ボス最高。駄目人間の琴線に触れまくり。告知効果あり過ぎ。
ヒト 「逆に、あんまりCM流しすぎない方が良いかもですね。
天狗 「まあ、ゲリラ的に広告うってる段階じゃ、まだ、お上に目ェつけられるとかねえだろ。まだまだイケイケで大丈夫だろ、だって
皆  「『俺、つーかマジでまるで負ける気がしねえんだもん』
天狗 「あ、俺、また口癖が出ちゃったか? 皆、聞いてくれ。俺は考えたんだ。ていうか
いつも考えてる。世の中が、もっと、面白くなんねえかなあって。おい、世の中ってどうす
りゃ面白くなるんだ?
ヒト 「え? 皆が皆、面白いことしたら、いいんじゃない?
ヒト 「ああ、面白い奴がいっぱい居りゃ、面白くなるかな。世の中。
ヒト 「待って待って世の中に、面白い奴がいっぱい居たとして、それで自分は面白楽しく
過ごせんのか?
ヒト 「だよなあ。
ヒト 「面白いことが、いっぱい起きると良いと思う。
ヒト 「面白いことが、たくさん起これば、世の中が面白くなるよな。
天狗 「おーおー。で。誰が、面白いことたくさん起こしてくれんだい?
ヒト 「どこかの誰か?
ヒト 「待ってればいつか?
天狗 「保障は?
ヒト 「無いっス。
天狗 「しっかり! 学級会になってんぞ。
ヒト 「ボスもうちょいヒント。
ヒト 「話みえな過ぎ。
天狗 「いいか、アングルを変えろ。面白い奴が増えなくったって良いんだ。面白い事に満
ち溢れた世界でなくたって良いんだ。いいか、アングルを変えろ。世の中がもっと面白くな
る為にはな、“面白い物”に皆がハマってる世の中になればいいんだよ。ところで皆、賭博
って楽しいよな。
ヒト 「賭博、ウス、超楽しいっス。
天狗 「ギャンブルまじサイコー?
ヒト 「ギャンブル鬼面白れー!
天狗 「想像してみてくれ。世の誰も彼もが、ケツの毛まで抜かれる勢いで、賭け事にハマ
っている世界。前途ある若者から、大の大人まで、ギャンブル抜け出せなくて、ケツの毛抜
き抜きされちまう世界。それって世の中のあり方として?
皆  「間違ってるー!
天狗 「でも?
ヒト 「面白そー!
天狗 「先代とは違うぞ! ここにマニフェストおっ立てさせてもらう! 俺の目指す世の
中。どいつもこいつも、ギャンブルにズッポシ先っぽまではまっちまってる世の中(マイケ
ルみたいに股間を鷲掴んだりして下さい)。だってそんな猥らな世界あったら?
皆  「くだらねえ。でも、面白れえ!
ヒト 「ボス! テング面の貸出会員、5000名を突破です。
天狗 「まだ足らねえ!
ヒト 「500人のディーラーに、新たにテングの名を与えました。ボス!(部下の御輿に担がれ移動)
天狗 「お前ら、もっと成功したくねえのか!
ヒト 「したいっすボス。
天狗 「上昇志向こそ、すべての活力だろうが! 一発当てずに死にてえのか!
皆  「一発イキたいっす。
天狗 「生産による剰余価値幻想から解き放たれろ。もはや、貨幣の最も熱い移動方法はギャンブルにしかねえ!
ヒト 「ボス、著名な経済学者が、プロ雀鬼が、有名タレントが、政治家が、高額納税トップランカーが、続々と……
天狗 「プレミア会員にしろ! いいですか、テングの面が待っている! 本当に面白いことは、今、ここで起きている! 本当に面白いことは……

ふすまがバンバン閉められていくパフォーマンス。天狗の一団去っていく。

と、二人の女が飛び出してくる。
一人は、破滅願望の強い、女ギャンブラー。
一人は、理屈の強い綺麗な勝ち方に頼ってしまう、最弱ディーラー。

ギャン「入れて頂戴よ! お願いだから、あそばせて!
ディー「入れてください! 不採用なんて、納得できません!
二人 「私を、テングの賭場に入れてよ!

女二人、ふすまをバンバン叩くが無音。諦めかけた所で……
また、ふすまがちょっとだけ開く。

ヒト「テングの面が、
天狗面「待ってるよ。

慌てて、女二人入ろうとするも、シャットアウト。
無理やり、戸を開けようとしだす。

ヒト「おいおいそんなんしたら扉壊れちまうだろうって……バターン。あ〜あ。もうここには、テング軍団は居ないよ。
ギャン「何処よ、テング軍団は!
ヒト「いや、あたしは隅でたまに予想屋とかさせて貰ってるだけなんでェ。
ギャンブラー「じゃ予想してみなさいよ。
ヒト「いやそういう人じゃないしね。
ディーラー「(別の場所で)どこがいけないのよ……、あたし…どこが…あたしの、どこがいけないのよ……
ヒト「こっちの人は何?(いっしょに貞子歩きしつつ)
ディーラー「イケイケでいくぞ、天狗ンなれ。……あれ、あたしも……言いたい……
ヒト「ああ、採用試験落ちちゃった。
  「ギャンブル……強いのに……あたし……
ギャンブラー「ギェアァーーー!
ヒト「今度は何よ!
  「あたしの……どこが……いけないのかしら……こんなにこんなにテング集団に入りたいのに……出入り……禁止…(今度はギャンブラーと一緒に、貞子歩き)
ヒト「あぁ、出禁のお客さんかぁー。まあその何だ、頑張って。

予想屋どこかへ。二人スピードに緩急つけのそのそと歩いたり、ぶつかったり……
鐘? 鈴? チーンと音なるもの取り出し鳴らして、不気味に歩いて行く〜

テングの者達。風のように現れ。少しだけ話し、また去っていく。

ヒト「お前、この面被る前の暮らしって覚えてる?
ヒト「カタギん時もそれはそれで色々あったけどよ。けど、いいよ。
ヒト「な。俺もなんか、これ外した生活とか考えらんない。
ヒト「今さらカタギとかの暮らしにはもどれませんて。
ヒト「俺もね、何があってもあの人についてくつもり。
ヒト「だよなー。あの人んとこいりゃ面白いってのは確実なわけで。

予想屋「さあさあ困ったお嬢さんたち、こっちにおいで。取って置きの耳より情報だ。
ディーラー「あたしはディーラーよ、見習だけど。見習にもなってないけど。なんで予想なんか聞く必要あるってのよ。
ギャンブラー「あたしはね、この腕と度胸一つで、二つで渡り歩いてるのよ。バカにおしでないよ。
予想屋「別にいらないなら構わないさ。けどいいのかい?聞くだけならタダだよ。損はさせない、するのはあたし。さ、おいで。
予想屋「このカジノはいつも通り明日にはカシを変える。けど、どこに行くかはわからない。
そんな流浪のカジノの門をくぐるための資格はたった一つ。鼻が利くかどうか、だよ。
金があろうが無かろうが、勝負強さも一切不問。ただ、臭覚が鋭いのか鈍いのか。

天狗面「だから、あんたら二人の鼻を、試させてもらう。どうだ?

ディーラー「もう一度チャンスがあるんだ。今度こそは合格しますよ。今までの試験はなんか言いがかりに近いヤクザ試験だったしね。
ギャンブラー「あたしを試そうなんていい度胸じゃない?この小娘との格の違い?見せてあげるわ。

予想屋「二人ともその意気その意気。
天狗面「さて、ウチラはいつも通り、街道を次から次へ転々と流れ移動していく。その先々で、ギャンブルの火種を撒き散らしながら。

ギャンブラー「ええ。
ディーラー「知ってるわ。

天狗面「相槌はうぜぇ。いいか、あんたら二人はその博打の狼煙を追っかけて、次にウチラが一晩燻るであろうきな臭い場所を嗅ぎ分けるんだ。簡単だろ?

ギャンブラー「簡単よ。
ディーラー「当たり前じゃない。

予想屋「その言葉、信用するわ。けど途中で諦めたりしないでくれよ?

ギャンブラー「くどい!
ディーラー「さっさと始めましょうよ。
天狗面「さ、見事辿り着けたら……そん時ゃ歓迎するぜぃ。

予想屋「てな感じで、適当にあしらってみました。
天狗面の男「おう。まあ、どっちも着きゃしないだろ。
予想屋「……いやあそれはどうでしょ。
天狗面の男「何だ、お前のしょっぱい予想じゃどっちが着くんだ?
予想屋「いや、それを予想してほしいのは、皆さんでして。
ヒト「は?
ヒト「ああ! 分かった。これどっちが着くかで賭けられるぞ。
天狗面の男「お前ら、ホンと賭けんの好きな。で、一口幾らからイク?
皆「ボス〜! (あんたも好きねえ)
天狗面の男「よし。続きは、次の土地行ってからな!
皆「ウス!

また。幸運の女神しれっと居る。

幸運の女神「……これ。一体どっちの女性が、先に辿り着けるんでしょうねえ? え。答。答えは、勿論知ってますよォ。だってあたし、
天狗面の男「分かんのかよ。
幸運「だってあたし、幸運の女神な訳ですよ。
  「ああ。そうね。だから?
  「どっちの子が幸運かを調べりゃ一発ですわ。
  「俺も自腹で一口乗ってんだ。教えろよ。どっちの女が勝つんだ。
  「んー?
  「どちらが早く俺たちの元へ辿り着く?
  「えー?
  「どっちだ?
  「正解はァー、……どっちも着くけどー、どっちも勝てない。かなー。(ハケる)
  「……どっちも着くけど? ……おい待て、女神なら分かるように言ってけ!

天狗面「人間が日進月歩で進化しているように、カジノもゲームも共に進化する、OK?じ
ゃあ皆さん、始めましょう。いつものように賭けてください。
ヒト「さ、ここからが今日のゲームのメインイベント。普通のギャンブルじゃあきたらないお客人!
ヒト「ギャンブルしながら、ディーラー気分をちょこっと味わってみませんか?
ヒト「ディーラー、それは支配者。ギャンブラー、それは挑戦者。

ディーラー「なんなの、この街!この牧歌的な雰囲気!
ギャンブラー「へらへら笑ってんじゃないわよ男も女も!ていうか勝負に拘れ賭け事にハマれ!
ディーラー「さすがにちょっとばかし遠くに来過ぎたかしら。
ギャンブラー「天狗の祭りもまだここまでは来てなかったようね。
ディーラー「さて、どうしたもんかな。
ギャンブラー「とりあえず、この街のカジノでも探すか。

ギャンブラー「ちょっと遊ばせて頂戴。
ディーラー「一晩ここで働かせてください。なんていうか、腕に覚えアリです。
ギャンブラー「軽く遊んでくだけよ。

一方は客として、一方はディーラーとして、べつべつの卓につく。

ディーラー「冷静な心と判断。これがカジノでゲームをする時の鉄則だ。ゲームの勝敗に、
それ以上の何かが乗ってる。場の空気と培ってきた歴史は全て数字になってるんだ。それを
巧く読み取ってコントロールするのがディーラーの腕の見せ所ね。ただ勝てばいいわけじゃ
ないのよ。
ギャンブラー「結局自分を追い詰めた人間が強いってのはさ、何もギャンブルに限った事じ
ゃ無いだろ?てことは裏を返せばギャンブルだって、自分を追い込んだ人間がやっぱり強い
のさ。あたしみたいにさ。スリルと恐怖の詰まったおもちゃ箱の底に、手を突っ込める人間
が勝つようになってるんだよ。
ディーラー「無鉄砲なお客さんもいるもんね。破滅へのジェットコースター。私には関係ないけど。
ギャンブラー「あそこのディーラーは勝負のなんたるかがわかってないね、あれじゃゲーセンの麻雀と変わらない。ま、あたしには関係ないけど。
ディーラー「さてと。この人の今までの成績は…あらら結構負けの込んでる典型的サラリー
マンプレーヤーじゃん。張りもおとなしいし、ここらで軽く持ち上げておいてたっぷりと絞
ればいいのよね。さて、こちらはどれに賭けますか?
ギャンブラー「こんな満月の夜に大勝負、私の身体も火照ってきたわ。赤よ赤。絶対に赤が来るわ。ほら、赤に一点張りよ。
ディーラー「マジで―!?ちょっと待ってよ。そんな大金賭けられたらこっちがハコ割れす
るっつーの。軽く稼がせてあげようって時にかぎってなんて大番狂わせ。あー。皆さんもよ
ろしいですか?勝負は一瞬、今ならまだやり直しもきく。変更の方はいらっしゃいません
か?
ギャンブラー「ちょっとディーラー。気ぃ持たすんじゃないよ。月に一度のオンナの勘に狂いはない!
ディーラー「そうね。もう賽は投げられたのね。
ギャンブラー「もう賽は投げられたのよ!
ギャンブラー「何でー!負けたー!
ディーラー「すいませーん。負けましたー。

ヒト「はいはい、了解です。ではルールをさらに変更します。まず猫を走らせます。その猫がマタタビに酔っ払った時のルーレット、これをオッズに上乗せしましょう。
ヒト「ボス、いい感じです。もうお客さんも盛り上がりまくり。
天狗面「結局な、みんな刺激に飢えてるんだよ。この世の中で何が面白いって、刺激的なことが一番面白いに決まってるんだ。そりゃハマるのも当然だ。
ヒト「いいですか!新たなルールの提案がありましたので、賭けの途中ですがルールを追加
します。ルーレットを回す人間は奥のキャットファイトの勝利者ということになりました。
4カードで革命が起きるというのはこれによりキャンセルとなります。
ヒト「ゲームを変更します。スロットによるビンゴで今日のゲームを進めてきましたがゼッケンを着けた山猿によるレースをこれの代わりとします。

ディーラー「絶対にこの捨てられたお城だと思ったんだけど。もう一回地図を見直すとしよ。
ギャンブラー「風邪?鼻がいまいち利かないのは風邪?けどね、あたしにはまだ場を読む目
があるのよ。

ヒト「お客様同士で戦ってください!ステゴロステゴロ。途中で鐘がなります、それが合図
です。その時勝ってる方、レイズの権利が与えられます。チャンスはこのときだけ!

ヒト「いや、面白くなってきましたね。もう何に賭けたらいいのか全く見当もつかない。ま、私は無難に3点買いですが。
ヒト「私なんか最初にグリーンに張り込んでしまって。ちょっと張り切りすぎましたよ。早く猫が転がってくれればいいんですがね。
ヒト「ねぇ、ちょっとすいませんが。ルールが複雑すぎてもはやよく分からないんですが。

ディーラー「天狗の賭場は
ギャンブラー「天狗の賭場は一体どこなの?

ヒト「わかりました。ではこうしましょう。お隣のかたとペアで勝負していただきます。じゃんけん勝負にしましょう、審判は我々天狗の者が務めましょう。

ヒト「素晴らしい!なんて奥が深くてシンプルなゲーム!
ヒト「さすが天狗の賭場だ!

ヒト「ボス。遂に、遂に来ました!
天狗面「そろそろだと思ってたよ。俺たちのイキっぷりはもはや向かうところ敵なしってとこだな。
ヒト「敵なしっす。
ヒト「無敵でやす。
天狗面「この国の政府も鼻の利かない奴らばかりじゃなかったってことか。政府公認のカジ
ノ、これでギャンブルというアンダーグラウンドも太陽を拝むことが出来るようになった。
まったく、俺が負けちまってる姿とか想像できねえよ。おっと口癖が。
ヒト「おめでとうございます!
ヒト「おつかれさまです!
天狗面「ありがとよ、お前達の力あってのことだ、感謝してるぜ。けどな、まだまだこれか
らだ。これからは世の中もさらに狂った様に面白くなっていく。俺たちはさらにこの鼻を天
高くおっ立てなきゃならない、凛々とな。
ヒト「はい、よろこんで!

ロビーでくつろぐ客の風景。そこへ二人が遂に到着!!!なんてな

ヒト「さて、次はどれで遊ぼうかしら。
ヒト「失礼。今日はルーレットは止めた方がいい。かなりの人間が大金スッて呑み込まれてますから。
ヒト「私は奥のレースに入り浸りでね。自分が駆け引きするよりも、駆け引きしながら走る人間を見てる方が性に合ってる。
ヒト「あら、その声ってばひょっとしてニュースの。
ヒト「シーッ。折角面を着けてるんだ、素性の詮索は止してくださいよ。
ヒト「そうですよ。…次の選挙では会社を挙げて応援させてもらいますよ。
ヒト「ま。意地悪な方。
ヒト「そういえば外が騒がしいようですが。まさかもう手入れが?
ヒト「それはないでしょう。…ああ、ちょっとすまないが君。

ヒト「ウチのカジノに入りたいって方がお二人。この蜃気楼の様にさまよう会場まで招待状
なしで辿り着けたら入れてやろう、ってことだったんですが。

ヒト「ああ、以前そんなのがいましたね。…二人のお嬢さんが。
ヒト「二人とも丁度今夜の今さっき、辿り着いたようなんですよ。
ヒト「それであの騒ぎか。成る程面白い。二人で同時なんて。で、どっちが入れるんです?
ヒト「そりゃまあ一応約束ですから二人とも。
ヒト「あの子に決まってますよ。あの頭の良さそうな子。
ヒト「いや、私はもう一人を押しますね。あの威勢のいい負けッぷり。
ヒト「そうね、私もあの子がいいわ。今日の勝ち分ノセてもいいわ。
ヒト「じゃあ私も一つノセてもらうかな。
ヒト「皆でやりましょうか?ゲームは大勢の方がいい。

ヒト「あの、ボス…
天狗面「そうか。客人達を楽しませてやらなきゃ俺の器も疑われるってもんだ。面白い。

ディーラー「約束どおり辿り着いたわ。約束どおり入れてもらうわ、いいのよね?
ギャンブラー「生憎、こんなのと一緒になっちゃったけど。
天狗面「お二人さん、せっせと辿り着いてもらえて俺も嬉しい。が、そう生憎とこの天狗の面は一つっきゃねえ。ついては、どっちがこの面に相応しいか、最後にもう一勝負してくれないか?
ディーラー「は?

二人の回りを、テング面が囲み出す。
転がるようにその合間を縫って、女二人がカード勝負をしていく。
段々と、取っ組み合いの様相を呈してくる。
いつしか、テング面の奴らは完全に、二人を囲む壁となっている。

ディーラー「諦めてもらう訳には、いかないのかしら?
ギャンブラー「ねえ? いつか次の機会があるかもよ?
ヒト「オーナー。これは、勝敗ははっきり出るのかね?
ヒト「しっかり頼むよ?
天狗面「ほら白黒ちゃんとつけんだぞ。

ナチュラルに、短剣での殺し合いに移行。

ギャンブラー「直接やってみて、しみじみわかったよ。あんたみたいなタイプ、あたし大嫌い! 賭け事、分かってないね!
ディーラー「台詞取らないで? お客で対したとしても、心の中で軽蔑するタイプって普通にいるし。賭け事、ほんと分かってない!
ヒト「賭けているのは、周りのお客様だ!(蹴る)

ランバージャック・デスマッチ。

予想屋「ほら、あたしの予想通りでしょう?
天狗面「そうだな。
皆「(ゲラゲラと笑う)

ディーラー「朦朧とする意識の中で。あたしは、何でテング集団に入りたかったんだっけ?
ギャンブラー「賭場での熱い時間を、夢見ていただけ。けれど、体のあちこちは焼けるよう
に熱く(ナイフによる刺し傷)、それでいて心の中は冷え冷えとして。

天狗面が一枚掲げられている。そこへ、二人たどり着くべくヨロヨロと……
けれど、結局二人とも、事切れる。
オオッというどよめきの中。

天狗面「さあ写真判定だ。賭け事をしているつもりが賭けられている、このカラクリ。おっと教訓めいた事いうつもりはねえよ。
皆「本当に面白いことは、今、ここで起きている!
天狗面「(低く静かに)……いいか、俺に賭けろ。
皆「(低く静かに)テングよ増えろ。
天狗面「俺に賭けろ。
皆「テングよ増えろ。

繰り返しつつ。フェードアウト。

第3章 了


第4章

天狗面「どうもどうも。お楽しみ頂けてますですしょうか? まあ、こうして、どんどん有
名になるんですが、そんな話ばかりしてても退屈でしょう。俺も劇みてて、おもうことあり
ますもん。主人公、もうおまえが如何にして成功していったとか良いよ。早く転落を見せろ
よ。挫折しろよ。破滅しろよ。それがエンターテイメントだろ? ……じゃ、エンターテイ
メントって、何なんだとか考えちゃうよね。……ま、一演技者が言うことじゃないですけど
ね。

時間飛ばしましょう。主人公初めてにして、最大の敗北。ここからいきましょう。悪い知らせほど……
ヒト「ボス! ボス!
天狗面「邪魔すんなッ。悪い知らせほど……
ヒト「ボス! 申し訳ありません。最悪です。
天狗面「思いもよらぬ晴れやかな場で告げらる。後にしろ。やっとで公営ギャンブル化の式典の場だろうが(暴力)
ヒト「賭場の貯蔵がつきます。バンクが破産寸前です。
  「賊でも入ったか!
  「いえ、正攻法で。
  「つまり客としてか!
  「はい。
  「予備は! 今入ってる連中は腕が立つだろう! サマだろうが、ヒラだろうが!
  「(首振る)潰されました。
  「……すぐ行く。何人がかりだ、(歩いて賭場に入ってゆく)ナメた真似しにきた奴らは。
  「いえ。たった、一人です。

ヒト「また来た! 13連チャン。
ヒト「止まんねぇ、止まんねぇぞ。ボス〜!
ヒト「あんたに付いてきて良かった〜。
悪運の女神「おうおう。慌てんな、みっともねえ。これからだよトドメ刺すのは! って言いなさい。
賭場荒らし「おうおう。慌てんな、みっともねえ。俺たちは、何しにここへ来てるか? こ
れじゃまだまだ、大勝ちした客だろ。あ。俺たちはここに、テングの蓄えと、プライドとを、
こそぎ取るために現れてんだから。トドメを刺すのは、これからだ。
悪運「変なアドリブを入れるなァ!
荒らし「はい、ゴメンゴメン!
皆「シビれるゥ〜! あと今、誰かと喋ってました?

天狗面「こちらの卓ですか、今宵、幸運の女神の祝福を受けられた男性がいらっしゃるのは
(他の客の手前、明るく振舞う。荒らし屋の近くまできて、低く喋る)お客様困りますねぇ、
……手前ェ、カタギじゃねえだろ。何。人ンち荒らしに来てんだよ。
ヒト「(それまでキャッキャッ騒いでた部下ら、ぴたりと静まる)おっかね〜ェ!
天狗面「そのおっかねェ男倒さねぇと、こっからまともに帰れねぇの、分かってんのか? さあ、命をかけた、サイゴの大勝負だ。このまま続けるぞ?
荒らし「……おう。構わん。そんな俺が、こんな余裕を見せられるのは、俺には、不運の女
神がついてるからなのだ。俺は、隙間産業たるギャンブルのさらに隙間的ポジションで、山
奥で小さな賭場を仕切るボス。
悪運の女神「悪運の女神です。
賭場荒らし「俺にとっちゃ不運の女神だよ。
悪運の女神「きっちり悪運掴み取りなさいよ。
賭場荒らし「お前の持ってくる運てのは分かり難いんだよ、いつも。
悪運の女神「悪運てのは不運と紙一重なの。ただの不運で終るのはあんたのせい。
賭場荒らし「神様風情が人間に失敗なすりつけんのか。
悪運の女神「そうよ。あんたはいつも一手多いの、一手遅いの。こっちが良かれと思ってあ
れこれやってんだから、あんたは良かれと思ったりやったりしなくていいの。ていうかあん
たいっつもそう。お上が踏み込んできた時も、金庫破りに遭った時も、この間の賭場荒らし
の時も。あん時もそうよ、ホラ、どっかの社長が来て、ああいうのは常連にするでしょ、普
通。それを一日で丸裸にしようとかしちゃって。
賭場荒らし「ああ、アレは。うん。失敗だった。
悪運の女神「あんたが丸裸になってどうするのよ。私恥ずかしいやら惨めやらで。
賭場荒らし「けどアレはお前が仕込んだりするから、何相手を勝たせようとしてるんだよ。
悪運の女神「あんたがセオリー無視するとか誰が思うのよ。
賭場荒らし「お前俺の頭ン中に住んでんだろ?その位わかるだろう。
悪運の女神「あんたの行動は人知を超えてるわ。あんたはねぇ、反省とかが足りない。過去
の体験からもっと学習して科学して。私は幸運の女神じゃないからあなたを勝たせてあげる
ことはアレだけど、負けない様にはできるから。ていうかもっと信用しろ!

ボスを、下っ端たちが引っ張って別の場所へ。次の回想シーンへ。

ヒト「ボス。俺たちもイケイケでイキたいっす!
ヒト「何で、俺らの賭場は、いちいち悪い方悪い方へ転がるんですかね!
ヒト「このままじゃ、種切れで、賭場もう開けませんよ!
荒らし「皆。ここがふんばり所だ。
ヒト「ふんばりっ放しですよ。もうね、自分ら勝ちたいです。切実に!
ヒト「しっかりして下さいよ。あの思うんですけど。御払いとかしてもらった方が良くない
ですか? これ絶対憑いてますよ。
荒らし「何が。
ヒト「貧乏神的な。
悪運の「近い。
荒らし「近いの!?
悪運の「いい? ツイてない奴の所へ、あたしは現れるの。そして、ツイてなさを溜めて溜
めて、積もらせて、過去の不運をぐちぐち嘆いて……ある時、ふいに。泣きたくなる様なツ
イてなさがツキへと転じるのを助ける係り。ほら近い。

しっかり、しっかりしてボス。勝負の最中! と揺さぶられて起きる。「ああスマン。回想
シーン的な物をしているんだ、今。」「は?」なんて、やり取りをする。

荒らし「そして、俺の元にウマい話が転がり込んでくる。それも何と、お上からの依頼だ。
テングの賭場をつぶして欲しいんだと。……あそこは、ついこの間、公営ギャンブル化した
んじゃないのか? つくづくお上の考えることは分からん。が、これじゃないのか!? こ
れが、男一世一代の大勝負じゃないのか?
悪運の「何? あんたちょっとあたし呼び出し過ぎ。
賭場荒らし「今回ばかりはお前に全面的に寄りかかろうと思ってる。
悪運の女神「いつもそうしなさいよ。
賭場荒らし「今度ばかりはホントにちとヤベエ。何せ相手は天狗の軍団だ。店担保で借りた
金合わせても足りるかどうか。実弾不足でやりあうにはもう、悪運の女神だろうが不運の女
神だろうが、その不幸中の幸いって奴に賭けるしかねぇ。賭けることにした。
悪運の女神「いい心がけね。最後まであたしを信じきれるように祈ってるわ。けどね。
賭場荒らし「何だ?
悪運の女神「銀行からもツマんだんだ。
賭場荒らし「正直それでもまるで心許ないが、無いよりは有る方がよっぽどいいからな。お前にも負担かけない様にってな。
悪運の女神「だからあんたはそうやって、良かれと思ったりやったりしなくていいっつーの。
賭場荒らし「今の天狗のボスは異常なんだよ。異常にツイてるんだ、神憑り的にツイてるん
だよ。お前は世間をまるで知らないな。
悪運の女神「知ってるわよ。あんたが知ってることはあたしも知ってるの!けど大体ウラも読めるわね。大方、幸運の女神でも味方してるんでしょうよ。
賭場荒らし「お前、そういうのはウラが読めるとは云わないんだよ。

歓声。再び、時間は現在の賭場の勝負の場面へ。

天狗面「景気がいいじゃないか。わざわざ田舎から遠征に来た甲斐があったってか?
賭場荒らし「あんた、憧れだったんだぜ。この界隈どころかいまや国中にその名声が響いち
まってる。地下世界から羽舞たいた天狗のカジノの親玉。その1ページ目は、確か自分の兄
貴分に反逆の狼煙を上げたところからだっけな。
天狗面「違うな、コイン1枚握り込んでケンカに明け暮れたところからだ。世間話がしたい
んなら生憎と、俺は忙しいんだ。
幸運の女神「幸運の女神です。
悪運の女神「やっぱりツイてた。
幸運の女神「え、誰?
悪運の女神「悪運の女神よ。
幸運の女神「え、何?不運の女神?
悪運の女神「悪運の女神。あんたがツイてればそりゃツイてるわね。
幸運の女神「あなたがツイてるとツイてない、みたいな。
悪運の女神「私がツイててもツイてるのよ!
幸運の女神「うんうん。
賭場荒らし「出る杭は打たれるって云うじゃないか。俺たち日陰者が日の元に出てきたら、
やっぱり叩かれるものなんだってよ。
天狗面「叩き返してやるよ。あんたは俺と勝負に来た、そうだろう?欲しいのはおれの首か?
それとも俺に引導渡されて華々しく散るのが所望か?
賭場荒らし「首は…いらねぇな。

幸運の女神「あなたわざわざ顔見せるなんて、私に挑戦するかんじなの?
悪運の女神「オンナだってね、ヤル時はヤルのよ。幸せ太り? ほんと嫌な女!
幸運の女神「あなたが不運なのは器とか色々小さいからかしら?
悪運の女神「だからあたしは悪運の女神!
幸運の女神「あたしは幸運の女神。
悪運の女神「しつこいわよ。
幸運の女神「ザンネンね。あの人にあなたがツイてても、こっちに私がツイてたのは不運の
一言に尽きるわね。ねぇ、やっぱあなた不運の女神に名前変えちゃいなさいよ。
悪運の女神「あなたが変えなさいよ。あたしがもたらすのは不運、そしてその奥底に潜む僅
かばかりの幸運。
幸運の女神「へぇー。
悪運の女神「あなたあたしのことナメてるでしょ。
幸運の女神「あなたがもたらす不幸中の幸いって何よ? 企業秘密?
悪運の女神「…あなたがいたのはホントツイてない。けど、私の出番はそこから先。まぁ見
てなさい。
幸運の女神「…ゆっくり見せてもらうわ。

天狗面「俺も急がしいんだ。勝負は一回きり、いいな。
賭場荒らし「充分だ。ヒラで頼むよ、ヒラでな。
天狗面「ヒラ、ね。

二人の女神、それぞれに耳打ち。
そしてゲームが結末。

賭場荒らし「すまねぇな。
天狗面「仕込みやがったな。
賭場荒らし「まさか、悪運の女神が味方してるってことよ。
天狗面「おい!何やってるんだよ、おい!どこいった!おい、出て来いよ!

幸運の女神「ちょっと!あたしここにいるよ先刻から。なんで!?あたしの声聞こえてないの?ねぇ、ちょっとぉ!
悪運の女神「これが私のチカラ。あなたがいたのは不運だったけど、生憎と天狗の男は、そ
の天狗になりすぎた故にあなたの声が聞こえなくなっていたみたい。分かる?天狗の男の失
敗は、勝利を見つめ過ぎて周りをみれなくなっちゃったこと、あなたの力を見向きもしない
ほど天狗になっちゃったこと。分かる? ホント、コレ不幸中の幸いって奴ね。
幸運の女神「このバカ天狗!こっち見なさいよ!

賭場荒らし「往生際が悪いんじゃないかい?こんだけのギャラリーがいるんだ。あんたは、敗北したんだ。
天狗面「そういうことかよ。いいさ。あんたはこれから、この天狗に勝利したって吹いてま
わるがいいさ。さ、もう用はすんだろ、店じまいだ帰ってくれ。

悪運の女神「ね、もうちょっとだけ頑張るのよ。あんたちゃんと言われたこと覚えてる?天
狗のボスを再起不能にまでノシてやらなきゃいけないんだからね。
幸運の女神「ちょっと! もう勝負はついたじゃない。意気揚揚と帰んなさいよ。
悪運の女神「こっちだって必死なのよ、黙ってなさいよ! コイツの漲る活力奪って、持っ
て帰んなきゃ、勝利の証拠に。コイツの鼻もいで、女々しく塞ぎ込むようにシメてやんなき
ゃ。ね、そいつの怒張したソレ。シャンとしろ! 男なら。

賭場荒らし「・・・ガキの遣いでもあるまいし、ただ帰るわけにもいかない。
天狗面「ナニが欲しい?
賭場荒らし「ナニが欲しい。俺の仕事はこっからが本筋だ。あんたにそこまでの恨みはねぇ
が、これも世の常。その鼻っ柱、折らせて頂く。
天狗面「この天狗を甘くみんなよ。鼻の一つや二つがもがれた所で、おっ立てた男のシンボ
ル、魂まで挫けると思うな。好きなだけもってくがいい。
賭場荒らし「すまねぇな。

ズバーン。

天狗面「…イテーッ。ヌォーオォウォウォウォウォウァー。
賭場荒らし「天狗に羽があるなんて誰が決めた? そんなのは山奥のお化け野郎にくっつい
た枯れ尾花。あるのは空に届かん有頂天。結局、芋虫のように、日陰を這いつくばってるべ
きだったんだ。…俺も、あんたも、な。もらってくぜ。…このカジノももう終わりだ。
幸運の女神「負けた。痛いよぉ、って意識とぶ!
天狗面「ヌァーアァーワァーウヮァワァウァー。

ヒト「ボス、手入れです! 退路の目が軒並み潰されてます。

オロオロする部下たち。

ヒト「それでも、逃げるしかないだろう!

敗走の踊り。暗転。

ヒト「どんだけ残ってるんだ?
ヒト「さあ。どうしようもなくなったら、テング外して人ごみに紛れるとは思うんだけども。
ヒト「今回は、もうほんとに終わりかもな。
ヒト「……何せ、鼻。折れちゃったからな。
ヒト「結構楽しかったんだけど。……霧散して解体されていくのかな、緩やかに。
ヒト「いや、もっと早いんじゃないか? この集団て結局ボスをカリスマにした一枚岩だったし。

無言で。鼻折れたボスを見る。

ヒト「これからどうし……
鼻 「いやあ、ごめんゴメン、遅れちゃった。しかし大変だったな。あんな絶妙のタイミングで手入れまでくるとはな。
ヒト「確かに、狙ったかのような間でしたね。
鼻 「俺たちももう終わりかなあ。

後から来たテング、なんか鼻が妙に長い。ちょっと洒落にならない位だ。

ヒト「なあお前。……すごい嘘ついてないか?
鼻 「嘘? ……・ついてないって!
ヒト「だってお前、なんかすごい鼻伸びてるぞ……!
鼻 「嘘なんかついてないって! 仲間なんか売ってないって!
ヒト「ちょっと! 囲まれてるじゃない、コレ!!
ヒト「ムリやりでもいいからボス立たせろ。早く!

騒然としたまま、敗走を続ける。

第4章 了


第5章

薄暗い部屋の隅で、寝転がる、天狗面の男。その鼻は無い。

天狗面「……痛ェ……。……まだ、痛ぇ……(鼻のあった場所をさすっている)。何もする
気がしねェ……。あの時、確かに見えた。両断された天狗面の鼻の切り口から、噴水みてぇ
な真っ赤な血しぶきが。……すげえビビった。あったけえし、生臭えし、止まんねえし。そ
して唐突に……俺の体に痛覚が戻った。
ヒト「ボス。ここももう危ない、場所変えましょう!
天狗面「え。
ヒト「ほら、しっかり立って!
天狗面「えー。てかもう。全てがどうでも良いよ。

連れてく。

ヒト「じゃあここで、静かにしてて下さいね!
天狗面「ここどこなの? ねえ、どこなの? もう!……何か喋り方までカマっぽくなってるしッ……
ヒト「まだ調子悪いんだから! ほら!
天狗面「痛い! 机の角に……足の小指……小指……(転げ回る)
ヒト「行こう。(皆で去る。ボスに対する悪意はない。できれば、早く立ち直って欲しい。甘やかさぬだけ)。

天狗面「……痛すぎる。駄目だ、やる気元気勃起、そういう物がひとつも涌き出てこない。
ヒト「さあ、いきましょう!
ヒト「畜生、どいつもこいつも手のひら返しやがって!
ヒト「テングだってバレてから、通報までが、
ヒト「早過ぎんだよ! ボス。次は? 自分ら、次はどっちで賭場を開けば?
天狗面「え。……さあ? ……あっち? ……そうそう、あれから賭け事でどうやっても勝
てなくなった。……鼻が折れた事との因果関係は不明。……ただ、ここにきて完全に俺のア
イデンティティは崩壊した。……何に賭けても、勝てない。

一枚のコインを弄ぶ。ふと。後ろに幸運の女神そっくりの女が立っている。ハイヒールなし。

天狗面「どこ行ってたんだよ……!
女  「え? 何?
天狗面「俺どうしたら良いんだよ。ツキは? 痛みに震えて、四肢五感が萎えちまってるんだよ! (八つ当たり的に暴力を)
女  「ちょっと痛い! やめて! 知らないよ、自業自得なんじゃないの?
天狗面「どうしてくれんだよ。どうしたら良いんだよ。
女  「あんだけ調子に乗っててさ、当然じゃないの? ちょっ!

天狗面の男。ついには、押し倒して首を締める……と、いう所で他のテング達に止められる。

ヒト「ちょちょっちょ、何してんですかあんた!
ヒト「おい離せ離せ!
ヒト「ボス! グルーピーの女に八つ当たって殺してどうすんすか!
天狗面「……え……? あれ……?
ヒト「あーあ、これ死んだかもな。
ヒト「この人、訳分かんなくなって暴れるから、檻入れとけ!

ガチャーン。暗転。
面を外す天狗面の男。無言。
……突然、壁に掛けてあった天狗の面が語り掛ける。

面  「よう。
天狗面「……誰だ。
   「よう。
   「……誰だ。……何処にいる。
   「ここだよここ。
   「これ……、え。どこから声聞こえてる? 頭の中?
   「違う、ここからだ。

気付く。

天狗面「お。お面が喋ってる……!
面  「おう。やっと聞こえたな。
天狗面「お面が……! おい、みんな来てくれ!
ヒト 「ボス!(喜)
天狗面「今、これ喋った。
ヒト 「ちょっと!
天狗面「喋ったんだ、天狗のお面。
ヒト 「(キレた)しっかりしてくれよ! ほんと頼むよ! (殴る。転がる天狗面の男)
ヒト 「ほら、行くよ、ボス!

面  「おう、大丈夫か。
天狗面「おお。(驚き)やっぱり……
面  「俺はな、ごくまれに天狗の面に宿る、天狗様だ。
   「……何?
   「この面を通して話し掛けている天狗様だ。残念だが、何度尋ねられても、これ以上
の詳しい説明はできん。あれだな。うん。S.Fだと思ってくれ。
   「……S.F、……天狗様。
   「俺はだな、天狗の面の頭領よ。お前の悩みを解決する為に現れた存在だ。あ、今、
なんて御都合主義的な展開なんだ、とか思ったろ。まあ、否定はしないが。んー、そういっ
た部分も含めて、S.Fだと思って欲しい。そんな私だ。さて早速だが、お前の悩みに、い
いか、一つだけ答えをくれてやろう。(天狗面の男が、お面を生きてるみたいに操ってくだ
さい)
   「俺の悩みに答えを……
   「そうだ。但しいいか、解答は一つだけだ。それに答えたら、俺は面から消え失せる。
よく考えて、質問の内容を決めろよ。ほら、何だ? お前は、俺に何を尋ねたい?
   「俺は。俺は、一体何に答えがほしいんだ……? よく考えろ! 最早刈り取られ、
平たくなったひ弱な鼻がかすかに嗅ぎ取る。ここだ。ここが勝負所だ! 俺はこの天狗の面
に何を聞く! 痛覚を再び消すことができるか、か? 失った天狗の鼻は戻るのか? なの
か? も一度イケイケになる為には? 違う。そうじゃない! 天狗集団は、賭場に返り咲
けるのか? いや……
   「まあこんな豪快に登場をしておいて何だが。……特に無いなら。帰るぞ。
   「待ってくれ! ……俺は幸運が、ツキが無くなって賭け事にまるで勝てなくなった
んだ。どうすれば、……ギャンブルで再び勝てる?
   「わかった。幸運の見えない時のギャンブルの勝ち方だな。教えよう。
面「その前にまず、幸運でツイてる時はどうして勝てたんだ?
天狗面「それは…出る目が俺には見えてたんだ。それはもう面白い位に。
面「栄光が。
天狗面「未来が。勝利に喜ぶ俺自身の姿まで、明日の新聞を舐めるように読んでいるかの如く、はっきりと。
面「そう、それだな。賭博において幸運を掴むということは、未来の目が見えているという
ことだ。これからワシの助手のお面軍団がお手伝いをしてくれる。驚かずに迎えてやってく
れ。

人々登場。

ヒト「まずは練習問題。こっちに向かってくるあの人はこの後どうするでしょう?
ヒト「1、ねじれる。
ヒト「2、反り返る。

こちらに向かってくる人、その場で足踏んでいる。その影から同じ面の人、やってきて1か2をやる。コイツが未来の目。

天狗面「そんなもの、今の俺に分かるわけないだろう。
ヒト「おやおや、未来の姿ははっきり目の前に示されているぞ?
天狗面「どこに?あいつはただゆっくりとこっちに向かってきてるだけだ。そっから先のこ
となんて誰が分かる?
面「お前の鼻を賭けた勝負ン時と同じだな。あの時のお前はちょっと天狗になり過ぎていた、
だからそうやって未来の目を見逃したんだな。
ヒト「ちなみに正解はコレ。

足踏んでいた人、影の人と同じ動き。

天狗面「それか?その影の奴が見せたのが未来の目。じゃああん時も、俺の目の前にこうや
って未来の目は転がっていたのか。
面「もちろん。けど見逃した。相手にはその痛いところを突かれた訳だ。人間、天狗になる
のも構わんが、やるべきことはやらんとな。ま、ワシは天狗様だからカンペを見たりするが。
ヒト「けど、これだけじゃ問題は何一つ解決してない。
ヒト「未来の目を見るっつーのは未来を想像することだ。
天狗面「想像?そんな簡単なことでいいのか。
ヒト「完璧にだ。やってみろ。

刀を振りかざす人間とマシンガンを構える人間が対している。息はあがっており、肩が酷く
上下に揺れている。

天狗面「こっから想像すればいいのか?戦い始めるように見える。違うのか?
ヒト「お前の答えはこれから二人は争い始める、だな。外れ。
天狗面「なんで!
ヒト「正解は、見るのが早い。

二人、最後の一撃を交わし倒れこむ。そこから立ち上がり、和解。お互いの健闘をたたえあう。

簡単っていうがコレが実に難しい。勝負の場において、お前が想像するべきはどんな未来だ。
天狗面「俺の勝ってる姿。
ヒト「見えなくなったのはいつからだ。
天狗面「鼻折られてから。痛みを知ってから。
面「ふむふむ。実にお前はまだ実感していないかもだが、人は痛みを思うと恐怖に竦むんだ。
恐怖に竦んでる奴に自分の勝ってる姿なんて思い描けやしない。気づいてるか?お前鼻折ら
れてから不運にも自分の敗れた姿で頭いっぱいだろ?お前自分の口癖今口にしてみろよ。
天狗面「だって俺自分の負けてる姿とか想像出来ねぇし。…あ…
面「勝ってる姿どころかよっぽど負けてる姿の方がリアルに思い描けるんじゃないか?
天狗面「膝から崩れる俺、掲げられた刃で鼻を根元から奪われる俺。
面「そういうことだ。もう二度と幸運な未来の目は見えないだろうな。
天狗面「俺はこの先、どうやって博打に出たらいいんだ。未来の目が見えずに、どうやって自分の勝利する姿を想像したらいい。
面「おうおう、お前って実は賢い?自分で答え半分云ったようなもんだぞ。確かに未来の目は見えないだろう。けれども、それでも未来の目を思い描くことは可能なんだ。
天狗面「どうやって。
面「今こそ本当の意味での嗅覚を手に入れなければならない。
天狗面「本当の嗅覚。
ヒト「もう一度さっきの問題だ。もっと注意深く場を読むんだ。

さっきのをちょっとゆっくり。

ヒト「二人とも呼吸は荒い。肩も揺れてる。引きずる足は既に相当な戦いの後だ。指先までこもっていく気迫、相手の一挙手一投足をも見逃さない緊張が走る。
ヒト「けど、そんな状態なのにまるで殺気が感じられないんじゃないのか?これでどうだ?
争いが始まる風景か?これは。
天狗面「俺が想像していたのとまるで、違ったんだな。これが本当の嗅覚って奴なのか?

後ろでは、猿が人に進化するように、未来に向かって動作が波へと変化していく。

ヒト「もっと鼻を利かせろ、もっともっと嗅ぎ取るんだ。息遣い、汗の湿り気、眼球の奥の濁り、肩の筋肉の強張り。
ヒト「漣も、揃えば思いもよらぬ潮を起こすこともある。
天狗面「場の空気を読むというのは、
ヒト「その卓の流れを読んで終わりではない。まさに場の流れを、
天狗面「その賭場の、波の向きと高さを、見極めるのだ。
ヒト「そう。そして丹念に丹念に未来を描ききること。
面「それが、痛みを持っている者なりの戦い方。戦略性の獲得だ。ゲームの達人を目指すのだ。
天狗面「ゲームの達人。
面「いいか、痛みは不運と敗北を過去から運んでくる。だが、嗅覚は未来につながっている。
天狗面「鼻の奥をくすぐる、幸運不運ゴッタの匂いを嗅ぎ分けて、俺が雄たけぶ勝利の姿、
面「描き切れればお前の勝ち!今こそ本当にもっと天狗になっていいんだよ。
天狗面「俺は天狗ンなるべきなのか?
面「未来の匂いを嗅ぐには、その鼻じゃまるで足らんだろ、ん?
天狗面「俺は、天狗ンなっていいのか?俺は天狗ンなっていいのか?俺は…お前ら!
ヒト「俺らだって、あんたに惚れ込んでついて来てるってだけじゃない。
ヒト「ぶっちゃけてイイ?ウチラ常にあんたにレイズしっ放しなのさ。
ヒト「俺たちは自分っていうコインをあんたに賭けてんのさ。
ヒト「イケイケでいくっていうその未来予想図に。ボス!

そしてお面が取り出される。それはまばゆい黄金の天狗の面。

天狗面「お前ら…。俺の名前を云ってみろ!
皆「天狗の中の天狗ッす!
天狗面「俺の名前を云ってみろ!!
皆「天狗の中の天狗ッす!!
天狗面「俺の名前を云ってみろ!!!
皆「天狗の中の天狗ッす!!!
天狗面「オォォォオォォォオォォォー!!!!

雄たけびを上げる天狗面の男に(ボスね。)黄金の面をつけてやる。

天狗面「イケイケでいくぞ!天狗ンなれ!
皆「ボス!!!

勢いに乗った天狗軍団。全国各地で暴れ回る。そのうち追い込まれ一塊のお面の団子になる。
それから幾星霜。
とあるカジノにて。

女「今日はすっかり負け越しちゃったわね。
男「お前が欲張ったりするから。
女「あんたが弱腰だからでしょ。あたしが少しイケイケで丁度いいのよ。
男「お前ね、俺の稼ぎにも限りがあるんだよ。
女「だからこうやって増やそうとしてるんじゃない。
男「それでこうやって減ってるじゃない。

別の卓にて

ディーラー「今日のゲームを終了でよろしいですか?ではあちらで精算を。

卓を離れたディーラーと二人連れがすれ違う。ぶつかって拍子に天狗の面が落ちる。

男「失礼。
女「ちょっとあんたそれ、早く拾って。
ディーラー「あの…
男「え?いや、なんでもないんです。別に。見なかったことにしてやってくれませんか?
ディーラー「いや、あの。私も、それ持ってるんです。ホラ。
女「え!?
男「ちょっとこっちで。

男「どういうことなんですか?
ディーラー「私、例の天狗のカジノでディーラーやってたんですよ。
女「え?まじで?
ディーラー「本当ですって。だからコレもってるんですから。
女「そうだったんだー。
男「いや、実はウチラもね。アソコにいたの。
ディーラー「これも天狗の導きってやつかしらね。
女「そんな立派なものかどうかはわからないけどね。
男「あ、そうとわかったら我々3人は身内みたいなもんだ。もっと砕けていきましょうよ。
女「そうよ。
男「でも、ちっとも気づかなかった。このカジノにはよく来てるんだけど。
ディーラー「私がアソコに入ったのはホント集団の解散の一年位前だったから。
女「皆天狗の面着けてたんだから素顔見たって分かるわけないじゃないの。
男「でも、最後の一年か。ある意味一番充実してた時期だから。
ディーラー「お二人は長かったんだ?
男「んー、まあそこそこ古株ってことになるのかな。けど、忙しかったろ。
ディーラー「夜はテーブルに立ってディーラーやって、昼は昼で逃げ回ったり戦ったり。
女「やっぱお国を敵に回すと怖いってことね。
男「お前どっちの味方だよ。
女「もちろん天狗のボスの味方よ。
ディーラー「北へ北へ流れ流れて。頑張って戦ったんだけど。
女「結局みんな無様に鼻折られちゃったのよね。悔しかったなー。
男「俺はさ、無様だとは思ってないよ。
ディーラー「ええ。
女「私だってそうよ。そうじゃなきゃ捕まる危険冒してまでお面持ち歩いたりしないわよ。
ディーラー「他の人たちも皆、ひそかにお面隠し持ってるみたい。
男「だよなー。いつかまた、必ずこの面が集まる夜が来るって。思い出にするには余りにも濃い日々だったから。
女「あの夜の、いかがわしいざわめき。熱狂の日々。忘れられるもんじゃないわ。

一人の男が近づいてくる。お面を隠す3人。

天狗面「そのままそのまま。

そういって鼻の折れた、けれども黄金の面を見せる。

男「…ボス!
天狗面「心配かけたな。
ディーラー「とんでもない。
男「いよいよ、ですか?
天狗面「悪ぃ、もう少しだけ待って貰えるか。
女「やっぱりまだあの時の傷が…
天狗面「いや、少しずつ傷も癒えてきた。よく見てくれ、鼻伸びかけてるんだ。
皆「ボス!
天狗面「もしもこの鼻が伸びきったら。その時はまた頼むぜ。まぁ見てなって、そう遠くないウチに。復活してやるから。
皆「はい!
天狗面「じゃ、行くぜ。こんなこと政府の犬どもに見つかったら元も子もない。
女「奴らさり気に鼻が利きますからね。
天狗面「鼻は俺の十八番だ。

幸運の女神が散歩しにくる。

幸運の女神「あ、久しぶりー。
天狗面「お前!一体どこほっつき歩いてた。
幸運の女神「居たよ、ずーっとあなたのそばにね。
天狗面「あ?俺の前にちっとも姿表さなかったじゃねえか。
幸運の女神「さみしかったんだ?
天狗面「ばかか?おまえは。
幸運の女神「あたしはね、そうだなー…
面「ごくまれに天狗の面に宿る、天狗様だ。
天狗面「ナニ!?
面「そういうことだ。
天狗面「お前俺の頭ン中にいたんじゃなかったのかよ。
幸運の女神「ええ。
天狗面「天狗様?はどこにいたんだ。
幸運の女神「あなたの中?それはまるで、自分の中にもう一人の自分がいる、みたいな。
天狗面「客観的な視点、て奴か。やってくれるぜ。
幸運の女神「賢いねー。もう行くね、いいでしょ?
天狗面「ああ、…またな。
幸運の女神「また、そのうちね。

ヒト「ボス!主だった連中、全員集合しました!
天狗面「おぅ。新しい門出の前に、まずは皆聞いてくれ。俺たちは一度確かに敗北した、鼻
を折られた。それはどんなイケイケでもけして忘れてはならねぇ。
ヒト「はい!
天狗面「という訳で、俺はたとえ何度鼻を折られても決して挫けない心を象徴するポーズを
考えた。今日はコレを覚えて帰ってくれ。

力強くFuckのポーズ。

ヒト「!!ボス!なんかそれ違うー!!(「ぴゅーと吹くジャガー」の最後のコマのイメージで)

唐突に幕引き、暗転。

End.